「ラストマイル」は、物流業界を舞台にした連続爆弾テロ事件を中心に描かれるサスペンス映画です。特にこの作品の大きな特徴は、テレビドラマ「アンナチュラル」(2018年)と「MIU404」(2020年)という2つの人気ドラマと世界観を共有する「シェアードユニバース」という設定です。物流センターで起こる爆弾テロを巡る物語が、これらのドラマでおなじみのキャラクターたちと交錯する形で進んでいきます。
監督は長年TBSで数多くのドラマを手がけてきた塚原愛子。彼女の繊細かつ大胆な演出が高く評価されています。脚本は人気脚本家野木亜紀子によるもので、2人のタッグは「アンナチュラル」「MIU404」に続いて今作で3作目となります。これらの作品は、緻密なストーリー構成と社会問題を扱ったテーマで多くの視聴者を魅了してきました。「ラストマイル」も原作はなく、野木亜紀子のオリジナル脚本によって展開されます。
映画「ラストマイル」監督・脚本家の背景と評価
- 塚原愛子監督
「ラストマイル」でメガホンを取った塚原愛子監督は、TBSの名作ドラマを数多く演出してきたベテラン監督です。特に「アンナチュラル」や「最愛」「グランメゾン東京」といった作品でのリアルで緊張感あふれる映像演出が評価され、多くの視聴者の支持を得ています。塚原監督は「映画は生き物のようなものであり、その場の空気感を大切にする」と語り、その繊細な映像作りが役者たちにも深い印象を残しています。主演の満島ひかりや岡田将生からも、「塚原マジック」と称されるその演出力に賛辞が送られています。 - 脚本家・野木亜紀子
一方、脚本を手がけた野木亜紀子は、社会派のテーマや人間の深層心理を描き出す巧みな筆致で知られる脚本家です。今回の「ラストマイル」では、登場人物たちの感情が直接描かれることが少ないにもかかわらず、観客が物語に没入することで自然に感情が生まれるという難解な脚本となっています。野木亜紀子の作品特有の、見えない部分に潜む人間ドラマが観客を魅了し、彼女の「脚本の魔術」に多くの人が感嘆しています。
映画「ラストマイル」キャストとキャラクター
- エレナ役:満島ひかり
主人公のエレナは、配送センターのセンター長を務める女性で、どこか孤独感を漂わせつつも、目の前の問題に向き合わざるを得ない性格です。彼女の持つ葛藤や弱さ、そして強さが同時に描かれており、満島ひかりがその複雑なキャラクターを見事に演じています。エレナは、面倒事を避けたいと思いつつも、結局は他者のために行動してしまう人物で、その曖昧さと優しさが物語の核を成しています。満島ひかりは役に入り込むため、撮影中は他の仕事を控え、エレナに全力で集中したと語っています。 - 孔役:岡田将生
エレナの部下であり、チームマネージャーの孔は、かつては情熱的だったが今は冷めた感情を持つキャラクターとして描かれています。岡田将生は、エレナを見守りつつも自身の内面では様々な葛藤を抱える孔という複雑な役柄を丁寧に演じています。彼は「現実感がない役柄をどう作り上げるかが難しかった」と述べ、孔の内面を細やかに表現するために慎重なアプローチを取ったとのことです。 - 五十嵐役:ディーン・フジオカ
エレナの上司である五十嵐は、エレナとの出会いをきっかけに自らも変わり始める役どころです。彼のキャラクターは寡黙ながらも、物語が進む中で次第に感情が表に出てくる様子が描かれ、ディーン・フジオカの端正な演技が光ります。 - 羊急便局長役:阿部サダヲ
阿部サダヲが演じるのは、配送業者の局長という役柄で、上司と部下の板挟みになる苦しい立場に立たされる人物です。彼のコミカルかつシリアスな演技が、物語の中で重要なアクセントとなっています。 - 配達ドライバー役:火野正平
配送ドライバーとして責任感を持つキャラクターを演じる火野正平は、物語の終盤で重要な役割を果たします。彼のキャラクターは、日常の仕事を通じて事件解決に貢献するという、シンプルながらも感動的な役柄です。
映画「ラストマイル」あらすじ
映画「ラストマイル」の物語は、ブラックフライデー前日に突如起こった爆発事件から始まります。この爆発は、巨大配送業者DAILYFASTから配送された荷物に仕込まれた爆弾によるものであり、それが連続爆弾事件の始まりでした。警察は配送業者に対して荷物の配達を停止するよう要請しますが、物流の流れを止めることは現実的に不可能です。
センター長のエレナ(満島ひかり)は、配送を止めることなく事件を解決しようと苦悩します。彼女はチームマネージャーの孔(岡田将生)と共に、どのようにして爆弾が荷物に仕掛けられたのかを探りながら、爆弾が流通してしまう前に解決を図ります。一方、機動捜査隊(MIU404)も捜査を開始し、ラボ(アンナチュラル)では爆発による犠牲者の解剖が進められます。物語は、5年前の事件との繋がりを見つけた捜査隊と、物流センター内での手がかりを元に、事件の全貌が明らかになっていきます。
映画「ラストマイル」ネタバレ(主要な展開)
事件を追う中で、エレナは5年前にチームマネージャーだった山崎の存在に辿り着きます。山崎はセンター内で事故に遭い、植物状態に陥っていました。この事故は、会社の非人道的な労働環境が原因であり、山崎はその状況に耐えかねて自殺を図った可能性がありました。
事件の真相を追求する中で、エレナは山崎の元恋人が現在の連続爆弾事件の犯人であることを知ります。しかし、彼女はすでに自ら命を絶っていました。最初に爆発で亡くなった人物も、実は山崎の元恋人だったことがラボの解剖で明らかになります。
山崎が事故を起こす直前に残したロッカーのメッセージは、彼の絶望と共に、彼が作業を止めたかったという悲痛な思いを象徴していました。エレナはこれに深い感銘を受け、最終的に物流センターの全ての配送をストップさせるという大胆な決断を下します。この決断は、物流の現場で働く人々の過酷な現状を象徴し、物語のクライマックスへとつながります。
映画「ラストマイル」MIU404とアンナチュラルのつながり
「ラストマイル」は「アンナチュラル」と「MIU404」とのシェアードユニバース作品であり、両ドラマで登場したキャラクターたちが再び登場します。
- MIU404では、ドラマの第3話で虚偽通報をした青年・勝俣が今回の事件に関わり、第4機動捜査隊の一員として活躍しています。彼はかつて助けられた立場から、今度は助ける側に成長しています。
- アンナチュラルの第8話では、自殺を止められなかった青年・白井がバイク便のドライバーとして登場し、今回は物流の一環として事件解決に寄与します。
このように、過去のドラマに登場したキャラクターたちのその後が描かれている点も、ファンにとって大きな見どころです。
映画「ラストマイル」見どころ
「ラストマイル」の最大の見どころは、物流センターの巨大なセットとそのリアルな映像美です。物流の現場で働く人々が日々どれほどのプレッシャーや過酷な労働を強いられているかが、リアルに描かれています。また、爆破シーンや緊張感あふれる展開が観客を引き込み、登場人物たちの感情や葛藤が丁寧に描かれています。
物流が現代社会で果たす重要な役割が浮き彫りにされると同時に、労働環境や社会問題についても深く考えさせられる内容となっています。物流のシステムに疑問を投げかけ、観客に「当たり前のことがもし突然止まったらどうなるのか」を考えさせるきっかけを提供する映画です。
映画「ラストマイル」主題歌
本作の主題歌は、米津玄師が担当しています。彼は「壊れていても構わない」という廃品回収業者の言葉に着想を得て、このテーマをもとに歌詞を作り上げました。彼の楽曲は、作品のテーマである「壊れたものや人間の命の尊さ」を深く反映しており、映画の感動をさらに引き立てています。