映画『上海バンスキング』は、1984年に公開された日本の音楽劇映画です。この作品は、1930年代から1940年代にかけての上海を舞台に、激動の時代に自由と情熱を求めた日本人音楽家たちの生き様を描いた物語です。監督は深作欣二が務め、主演の風間杜夫をはじめ、松坂慶子、宇崎竜童、志穂美悦子といった豪華なキャストが集結し、映画に深みと感動を与えています。
物語の背景となる上海は、当時国際的な文化の交差点であり、音楽、特にジャズが自由の象徴として花開いていました。本作では、戦争という不安定な時代を生き抜いた音楽家たちの情熱や葛藤、そして夢と現実の狭間で揺れる人間ドラマが、豊かな音楽と共に描かれています。原作は斎藤憐による戯曲『上海バンスキング』であり、この戯曲は1979年に初演され、岸田國士戯曲賞を受賞するなど高い評価を得ました。
映画『上海バンスキング』あらすじ
物語の舞台は1936年、初夏の上海。クラリネット奏者である波多野四郎(風間杜夫)は、妻のまどか(松坂慶子)とともに、自由に音楽を奏でることができる場所を求めて日本から上海へ渡ります。そこで彼らは、トランペット奏者の松本亘(宇崎竜童)やダンサーのリリー(志穂美悦子)と出会い、クラブ「セントルイス」で演奏活動を始めます。
上海という国際都市の中で、彼らは自由な音楽文化に触れながらジャズを通じて観客を魅了し、成功を収めていきます。しかし、日中戦争の勃発とともに状況は一変し、音楽家たちの生活は戦争の影響を受け始めます。戦争の混乱は彼らに自由を奪い、波多野をはじめとする仲間たちは音楽と信念の間で苦悩する日々を送ることになります。
戦争の終結後、自由が戻ったとき、波多野は阿片中毒によって廃人となり、松本は帰国途中で命を落とします。夢見た音楽の自由は戦争という大きな力に翻弄され、彼らが求めた理想と現実の落差が観客に強い印象を残します。
映画『上海バンスキング』ネタバレ詳細
映画のクライマックスでは、音楽家たちが自由に音楽を奏でられる幸せな日々が戦争によって崩壊していく様子が強調されます。波多野は阿片の誘惑に屈し、妻のまどかとの関係も崩壊します。仲間たちも次第に散り散りになり、松本は帰国途中の戦争の混乱の中で命を落とします。
最終的に、波多野は廃人となりながらもかつての演奏の日々を懐かしみ、ジャズへの情熱を抱えたまま孤独な日々を送る姿が描かれます。戦争によって彼らが失ったものの大きさが観客に訴えかけられるラストシーンは、静かでありながら強烈な余韻を残します。
映画『上海バンスキング』考察
『上海バンスキング』は、戦争と音楽、自由と束縛、人間の夢と現実の葛藤をテーマにした深い作品です。物語を通じて描かれるのは、激動の時代においても信念を曲げず、自らの情熱を貫こうとする人々の姿です。
本作の重要なテーマである「音楽の自由」は、戦争という抑圧の中でどれほど尊いものであるかを示しています。また、上海という国際的な都市を舞台にしたことで、異文化が交差する中での個人の生き方や、人間同士のつながりも強調されています。
さらに、阿片中毒や戦争の悲劇といった負の側面が描かれることで、単なる音楽映画としてだけでなく、時代の悲哀と人間ドラマを深く掘り下げた社会的な作品としても評価されています。
映画『上海バンスキング』キャスト
- 波多野四郎(風間杜夫)
自由な音楽を追い求めるクラリネット奏者で、本作の主人公。波多野の情熱と苦悩が物語の軸となります。 - 波多野まどか(松坂慶子)
波多野の妻であり、夫を支える存在。彼女の視点を通じて戦争や夫婦の絆が描かれます。 - 松本亘(宇崎竜童)
トランペット奏者で、波多野とともに自由な音楽を追求する仲間。彼の運命が物語に深い影響を与えます。 - リリー(志穂美悦子)
クラブで働くダンサーで、彼らの音楽活動に関わる重要なキャラクター。
映画『上海バンスキング』原作
原作は、劇作家斎藤憐による同名の戯曲です。1979年にオンシアター自由劇場で初演され、第24回岸田國士戯曲賞を受賞しました。原作の戯曲は、舞台での成功を収めた後、映画として映像化され、深作欣二監督によって新たな命を吹き込まれました。
映画『上海バンスキング』評価
公開当時、映画は批評家から高い評価を受けました。特に、豪華なキャスト陣の演技や、当時の上海の雰囲気を見事に再現した美術と音楽が称賛されました。さらに、深作欣二監督の手腕により、戦争の悲劇と音楽への情熱が見事に融合した作品として評価されています。
しかし、一部の観客からは、物語の重さや悲劇的な結末について賛否が分かれる意見もありました。それでもなお、多くの人々に感動を与え、時代を超えて語り継がれる名作として位置づけられています。
映画『上海バンスキング』見どころ
『上海バンスキング』の最大の見どころは、戦争という大きな流れの中で、自由を追い求める人々の姿が音楽とともに描かれる点です。ジャズの演奏シーンは、登場人物たちの情熱と生き様を象徴しており、観客に深い感動を与えます。
また、風間杜夫や松坂慶子をはじめとするキャスト陣の熱演や、戦前の上海の華やかさとその裏に潜む混乱を再現した映像美術も見逃せません。戦争による破壊とそれに抗う人々の姿は、現代にも通じる普遍的なテーマを持っています。
『上海バンスキング』は、音楽と歴史、そして人間ドラマが巧みに融合した名作であり、多くの観客に深い印象を残す作品です。この映画を通じて、激動の時代を生きた人々の思いに触れてみてはいかがでしょうか。